クローズアップ擬態

あらすじ

 昭和五七年三月、仙都銀行勤続34年、庶務部管財担当行員山川慎伍は、まだ定年前の同輩達が他社へ次々と出向を命じられ、出世組も雑兵組もそれぞれの思惑を秘めながらも、辞令書片手に、頭を低く挨拶を交わして銀行を去ってゆく姿に複雑な思いを寄せて見送っていた。

 彼等のその後は、定年六十才主流の時勢に逆らって仙都銀行五五才定年制の一年前か二年前に準定年ということで退職させられ身分は出向先に移されてしまう。

 こうして定年前に実質クビを切られる行員たちには、早期退職の割増金取得どころか、銀行と出向先との給料差で多大な損失を被る経済迫害題なのだ。だからと言って彼等に自力就職のあてはなく、まだ返済未了の住宅ローンや、あと数年間は子供の教育費が必要な者もありで、年金受給六十才までは銀行が宛てがう職場で忍の一字でもって堪えて行かねばならないのだ。

 対して本稿に見る山川が一見温厚柔順風なのは「人には礼儀正しく親切に」だけを自己に課した銀行員像としていたせいだろうが、怪しからんと思った上司には徹底抗戦の猛者振舞いへの報酬によってか、出世は同期中最低で五三才で係長級の雑兵である。

 銀行の係長程度で定年退職というのでは世間的には晴れ晴れしくない、と言う気持ちから職場でもらえる見込みない肩書に代えて、退職で消える一企業の肩書ならぬ、生涯通じる“能書”を得ようと管財職務上で受験資格がある建設関係国家資格を取得して社会的コンプレックスを排除した。 

 そういうことで、定年後の職業に選択肢を得ていた山川は、銀行と御用行員組合が制度悪用している準定年制度も新就職斡旋も無用で“俺の出番”とばかり自らのクビを賭ける中途退職を覚悟の上で、銀行首脳にその非を指摘し改善を促がし、特に銀行トップの会長が退職期行員の経済的、身分的利益を損って掃き捨てながら、当仙都銀行と無関係の自分の息子を仙都銀行取締役に迎え、やがてはトップの地位を世襲させるという傲慢で厚かましい破廉恥な施策を詳細な文書に纏めて非難し、役員室12階を震駭させる。

 その半年を待たない人事異動で通勤不能の遠隔地支店に左遷の内示を受けて即退職する。勿論、予想と予定の成行きである。

 退職後の山川は、建設業と不動産業を営むが、銀行の定年制度改善と世襲など封建制度退治問題は、そのために銀行にクビを置いてきたのであるから懸案問題とし、辛辣に過激的に経営トップへの避難を続け問題解決を迫りゆくという、反逆の一銀行員物語です。

おわり

 

「世相小論」は著者の想念であり、「クローズアップ擬態」は著者のその人生であります。

両著書は願望と体現が相関して乱脈ながら一体感を織り成しているものです。

何卒、不調法をご寛容の上、両著書を合わせてご高覧賜りたくお願い申し上げます。